インタビュー|日本アンチ・ドーピング機構より

浅川 伸

公益財団法人
日本アンチ・ドーピング機構 事務局長

浅川 伸Shin Asakawa

(公財)日本アンチ・ドーピング機構 専務理事
(公財)日本スポーツ仲裁機構理事
(一財)嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター理事
Institute of National Anti-Doping Organizations (iNADO) Board member

アンチ・ドーピング活動は、「違反取締」から「スポーツの価値を護る」活動へ

アンチ・ドーピング活動の現状

トップレベルのアスリートが、最高のパフォーマンスを競い合うスポーツイベントが世界中で開催されていますが、 近年では、アンチ・ドーピング規則違反者が頻繁に摘発されるという負の一面も併せ持っています。スポーツにおけるドーピングについては、 “違反者がいることを前提に規則が整備されている”のが実状であって、この状況からは、正々堂々、フェアプレーといったスポーツに対するプラスイメージは、 古い時代の価値基準となってしまったのかとさえ感じられます。 もしも、私たちが抱いているスポーツに対する価値意識とスポーツの実態がどんどん離れていくことになれば、多くの人々のスポーツに対する興味と関心が減退していく危険性が生じてきます。 この興味関心の減退こそが、スポーツの崩壊を引き起こすリスクであり、国際オリンピック委員会(IOC)をはじめとする世界中のスポーツ関係者が、アンチ・ドーピング活動を積極的に展開していることの背景となっています。
このような状況において、1999年、IOCを中心とするスポーツ界と各国政府との協調により、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が創立され、 2003年には、スポーツ界の統一規則である世界アンチ・ドーピング規程(Code)が策定され、現時点では、オリンピック競技に限らず、 ほとんどの競技種目が、このCodeに基づくアンチ・ドーピング活動に賛同し、活動を展開しています。 さらに、2007年2月に「ユネスコスポーツにおけるドーピング防止に関する国際規約」が発効し、日本を含む世界各国の政府に対し、アンチ・ドーピング活動の推進が義務づけられました。これを受け、日本では、2007年5月、文部科学省が「スポーツにおけるドーピングの防止に関するガイドライン」を施行し、 スポーツ団体のみならず、都道府県においてもアンチ・ドーピング活動の推進を必須事項としました。上述のガイドラインにおいて、国内のアンチ・ドーピング機関として位置づけられたJADAでは、 文部科学省(現スポーツ庁)からの事業委託により、ドーピング検査実施、教育啓発資料作成、アスリート・指導者・医師・薬剤師への研修会の実施などの活動を積極的に展開しています。

高まる薬剤師への期待

旧来、日本におけるアンチ・ドーピング活動といえば、ドーピング検査実施と検査対象となる可能性のあるアスリートに対して心構え(準備) を教えることがその活動の中心でした。しかし、現在、WADAやIOCが重視しているのは、教育啓発活動を通じて、アスリートにスポーツの価値を教えることにより、 ドーピングに反対する姿勢を植え付けようという価値教育と、ドーピングのリスクなどについての適切な情報提供システムの構築です。 今回、日本薬剤師会の協力を受け始動した「公認スポーツファーマシスト認定制度」により、アンチ・ドーピング規則に精通した薬剤師の育成を図ることで、 使用可能な薬に関する情報を提供することができれば、アスリートのコンディション管理面でも寄与するものが大きいと考えています。
現在のアンチ・ドーピング活動は、検査により違反を取り締まる活動から、スポーツとアスリートを護る活動へと、活動の主旨と範囲が大きく切り替わりつつあります。アスリートとアスリートを取り巻く関係者の理解がなければ、アンチ・ドーピング活動の充実はあり得ません。 私たちが愛するスポーツがこれからも愛される存在であり続けるために、アンチ・ドーピング活動への理解と協力をお願いします。

赤間 高雄

公益財団法人
日本アンチ・ドーピング機構 副会長

赤間 高雄Takao Akama

(公財)日本アンチ・ドーピング機構 副会長
早稲田大学スポーツ科学学術院教授
(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会メディカルディレクター
(公財)日本オリンピック委員会アンチ・ドーピング委員会副委員長
(公財)日本ラグビーフットボール協会アンチ・ドーピング委員会委員長
アジアオリンピック評議会医事委員

アンチ・ドーピングに精通した薬の専門家、スポーツファーマシストに期待

日本におけるアンチ・ドーピング規則違反の多くには意図しないドーピングがあります。そしてこれは、アスリート側の薬に対する知識が少ないことが原因でおこっているのが実状です。しかし、意図しないドーピングであっても違反であることにかわりはないため、競技レベルに関係なく同じように制裁をうけることになります。アスリートにとって日々の努力が水の泡になってしまいます。
日本代表クラスのトップアスリートになると、スポーツドクターやトレーナーといったスタッフが揃い、アンチ・ドーピングに対しても相談できる環境が整いますが、スポーツ現場ではトップアスリートは一握りであり、トップを目指して挑戦しているアスリートがたくさんいます。このアスリートたちを取り巻く環境は、得てして情報が手に入りにくく、身近に相談できるところもないのが実状です。

現在日本アンチ・ドーピング機構(JADA)はジュニアアスリートに対し、アンチ・ドーピング教育を積極的に行なっていますが、その成果がみえてくるにはもう少し時間が必要と思われます。
大半のアスリートにはアンチ・ドーピングに関する情報が乏しいのが現実です。つまり、最も情報を必要としているアスリートに対し、 アンチ・ドーピングに精通した薬の専門家のアドバイスが、身近に受けられることは非常に有効と思われます。
現在、治療使用特例(TUE)の申請をすることで安心しようとして、禁止物質が含まれている薬以外の薬も申請してきたり、逆に必要とする薬も、禁止物質が含まれているかもしれないからといって飲まなかったりするケースも多々あります。アンチ・ドーピングの規則はとても複雑で、 一般の医師やスポーツドクターが100%理解しているとはかぎりません。もちろんアスリートや指導者に十分な知識をもつ人は少ないでしょう。

アンチ・ドーピングに精通した薬の専門家は、本当に少ないのが実状です。しかし、スポーツの現場で必要としているアスリートはたくさんいます。 アスリートが安心して、身近に薬のことが相談できるアンチ・ドーピングの薬の専門家、スポーツファーマシストが、全国に増えていくことを期待しています。

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